松田優作はタバコの跡
上野森美術館にて行われている、
立木義浩さんの写真展 "ー時代ー" を観た。
様々な写真が展示されているが、大きく3つほどに分けられるだろうか。
有名人や芸能人を中心としたポートレート、
日本のみならず、世界の日常に触れるスナップ、
そして、スクエアという異なる雰囲気のデジ六、である。
そのなかから私は今回2つの展示に触れたい。
率直にいうと、私はポートレートがあまり好きではない。
特に、家族写真や芸能人の宣材写真など、
写真集的な''ザ・ポートレート''的な写真。
カメラマンの指示によって、ポーズを取った写真を好めない。
大きな理由があるわけではないが、カメラマンが作り出した必然よりも、
被写体や環境による偶然性のある写真の方が個人的に魅力的だと感じるからだ。
今回展示されていた芸能人や有名人のポートレートも、
”写真”を見るというより、
そこに映った芸能人や有名人の豪華さに目が行ってしまった。
というのが正直なところである。
が、
私の目を奪った一枚があった。
勝さんと玉緒さんの夫婦の写真である。
勝さんが玉緒さんの肩を抱きにこやかに笑顔を見せる写真は、一見他のポートレートと同じように仲の良い夫婦の記念写真にすぎない。
しかしこの写真、夫婦の背景にはスタジオの機材らしき照明が写り込んでいたり、背景の剥がれ具合が写っていたりと、
撮ろう!と指示をして撮ったとは思えないのである。
凛としている中に、どこか和やかさや柔らかさが感じられるのだ。
”こんなことを表現しよう” ”この人のここを見せよう”と細かく考えられたものではなく偶然撮影されたかのような、照れ臭さい表情も見える。
玉緒さん勝さん夫婦と、立木さんとの関係を調べていると、ネットである記事を発見した。
平山祐介が聞く「立木義浩さん、今まで撮った一番印象的だった人は誰?」|OCEANS オーシャンズウェブ
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ある雑誌のインタビューで、一番印象的だった人は誰か?という質問に対し、勝さん玉緒さん夫婦の写真だと答えているのだ。
この記事曰く、
やはりこの写真は公式の撮影でのショットではなく、オフショットなのだという。
勝さんの撮影現場にたまたま来ていた玉緒さんを誘って撮影した夫婦写真らしい。
であるからこその、自然な距離感に愛を感じられる。
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もう1点は、
二階に展示されていたスナップ『マイアメリカ』の写真である。
天井近くまでずらっと縦に様々な大きさで並べられた写真には圧倒される。
1980年ごろ(約40年前)のアメリカの光と闇、建物、人、風俗、エロス、
そしてまさにその「時代」を表すものなのだ。
そこには、アメリカの自由で不自由な現実が写されている。
人々は、笑い、踊り、歌い、喜び、輝く。
そのすぐ側には、恐怖と闇、束縛があるということだ。
何気無い平凡な生活を捉えたものの写真の隣には
いくつかの銃を写した写真が展示され、
人々が踊っているような明るい写真のそばには
KKKによる黒人差別の写真が展示され、
輝かしいブロードウェイのような街や人の写真のそばには
迷彩柄の軍服姿の男たちの写真が展示されている。
それから40年という年月が流れた。
形は変われど、現在も同じように「時代」は流れているだろう。
「私たちが普段目にする世界は1面にしかすぎない。」
そう言われたような気持ちになった。
スナップ写真は、
ただ日常にあるちょっとした出来事を収めるものだと思っていた。
そこにある2面性を、普段は見えない裏側を
日常から見つけ出せたら、面白い。
1面だった世界が、身の回りが
どんどん広がっていくような気がするのだ。